大友さんはメンタルトレーニングの6ヵ月間コースを受講しました。
受講前の課題
1.リーダーシップとコミュニケーションの課題
大学時代、キャッチャーとしてチームを支える役割を担い、リーダーシップを発揮していました。チーム全体の雰囲気を良くするために積極的に声を出し、ピッチャーを鼓舞する声掛けを心がけるなど、持ち前のコミュニケーションスキルを活かして野球に打ち込んでいました。しかし、大学卒業後に進んだ社会人野球では、1年目という立場もあり、先輩たちに気を遣いすぎて自分らしさが発揮できず、コミュニケーションスキルを十分に活かせない状況に陥りました。
2.精度の高いプレーへの適応とメンタルの課題
さらに、社会人野球では、個々の選手のスキルが非常に高く、プレーの質の違いを痛感しました。大学時代のリーグ戦とは異なり、社会人野球は負ければ終わりのトーナメント戦が続くため、ミスのない正確なプレーが求められます。このような緊迫した場面では、「ミスをしたくない」という強い意識から雑念が入り、集中力を欠いてパフォーマンスを発揮できなくなる課題がありました。
特に、バッターとしては2ストライクに追い込まれた場面でのメンタルが課題でした。「三振したくない」という思いが強くなると雑念が生じ、集中力を保てなくなり、頭と心の整理がつかない状態に陥っていました。
3.キャッチャーとしての課題
キャッチャーとしても、「ミスをすればチームの信頼を失い、試合への出場機会が減るかもしれない」というプレッシャーを強く感じていました。その結果、正確なプレーをしようとする意識が過剰になり、緊張や焦りが生まれていました。
4.モチベーション維持の課題
また、NPBを目標としていたため、自分の可能性を最大限に発揮できる環境を模索し、最終的に社会人野球ではなく独立リーグでプレーする道を選びました。独立リーグでのプレー開始当初はエネルギーに満ち溢れ、モチベーションも非常に高い状態でしたが、シーズン中盤になると試合に慣れてしまい、モチベーションが低下する課題に直面しました。
トレーニング事例
目標設定
メンタルトレーニングの「目標設定」では、様々な角度から目標を具体化しました。まず、独立リーグのシーズンを通じて達成したい成果や結果を明確にし、その後、ドラフト指名後のプロ1年目、さらに5年目までのシーズン目標を設定しました。それまで1年後の目標は立てていたものの、5年後の目標を考えたことはなかったため、未来の自分を具体的にイメージする良いきっかけとなりました。
また、競技以外の部分にも目を向け、年収や生活スタイルなど、細かい目標を設定するワークも行いました。これにより、達成後の具体的なイメージが持て、日々の行動が明確になるとともに、自然とモチベーションが高まりました。この取り組みのおかげで、普段の練習に対する意欲と集中力が向上し、目標設定の重要性を再認識しました。
マインドセット
次に、自分自身の考え方を深く理解する「マインドセット」のセッションを実施しました。特に「成長マインド」と「ブレーキマインド」に焦点を当て、それぞれの特徴を掘り下げました。結果にとらわれすぎると、「ミスをしてはいけない」「良い結果を出さなければならない」というネガティブな考えが浮かび、それが消極的なプレーにつながることを自己分析によって認識しました。
この理解をもとに、ネガティブな「ブレーキマインド」を「成長マインド」に切り替えるワークを実施。試合中の考え方を具体的に自己分析した経験がなかったため、このセッションは自分を深く知る良い機会となりました。
セルフトーク
結果にとらわれネガティブな思考が浮かんだとき、考え方を切り替えるだけでなく、実際に口に出してポジティブな言葉に変える「セルフトーク」も行いました。たとえば、「結果」ではなく「プロセス」に焦点を当て、「今やるべきことをやる」「準備してきたことを信じてプレーする」といった言葉を意識的に使うことで、心の整理がつきやすくなり、試合に集中できるようになりました。
セルフコントロール
集中力を高め、不安や雑念を取り除くためのトレーニングも行いました。具体的には、バッターとして2ストライクに追い込まれたときの不安を克服するため、「間合い」を意識したセルフコントロールを実践。また、試合中に下を向く癖があるため、目線を上げて姿勢を正すことで心の状態を整える方法も試しました。これらの方法は試合中に即座に取り組める実践的なテクニックとして役立ちました。
プレパフォーマンスルーティン
バッターとしてのプレパフォーマンスルーティンでは、自信や集中力を高める一連の動作を作り上げました。たとえば、バッティングが好調なときのスイングの軌道をイメージしたり、ボールへのコンタクトを具体的に描くなど、細部にまでこだわったルーティンを構築しました。このルーティンにより、自信を持ってプレーに臨むことができるようになりました。
ゾーンへのアプローチ
最後に、ゾーンに入るためのセッションを実施。最高のパフォーマンスが発揮できる状態を細かく分析し、リラックスと集中のバランスを考慮した試合前日から試合当日までのルーティンを作成しました。この取り組みによって、自分が理想的なプレーをするための準備が明確になりました。
受講後の成果
バッターとしての成果
受講前は、追い込まれた状況で「三振したくない」という不安や雑念にとらわれ、集中を欠いてしまうことが課題でした。しかし、受講後は心の余裕を生み出すマインドセットを身につけ、自分の「間合い」を意識したセルフコントロールを実施することで、不安を軽減し、集中力を高めるきっかけを自分自身で作れるようになりました。
また、自信・成功イメージ・集中を生み出すルーティンを構築したことで、打席でのバッティングプランが明確になり、自分のペースを保ちながらプレーできるようになりました。その結果、以前よりも打席でパフォーマンスを安定して発揮できるようになったと実感しています。
考え方の変化
試合中に「ミスをしてはいけない」というネガティブなブレーキマインドが生じることがありましたが、これを「積極的にチャレンジして良いミスをする」というポジティブな成長マインドに切り替えることができました。この考え方の変化により、プレッシャーのかかる場面でも委縮せず、思い切ったプレーができるようになり、心に余裕を持ってプレーする重要性を実感しています。
自己分析力の向上
目標設定やマインドセットのセッションを通じて、自分の考えを言語化するワークを多く実践したことで、考えをシンプルかつわかりやすく整理する力が向上しました。その結果、自分の課題を迅速に認識し、具体的な解決策を考えられるようになりました。これにより、課題解決に向けた行動をスムーズに進め、成長を加速させることができたと感じています。
大友選手プロフィール
大友 宗(おおとも・そう)
大阪出身。1999年7月23日生まれ。
福岡ソフトバンクホークス 所属。
帝京大学では2021年の大学4年時に正捕手として活躍した。2022年4月に日本通運に入社するが2023年12月に退社を決断し、プロ入りを目指しルートインBCリーグの茨城アストロプラネッツのトライアウトに参加して合格する。2024年4月シーズン開幕から正捕手として試合に出続け、強肩を活かした守りと、長打力を発揮しルートインBCリーグ2位の12本塁打を記録した。
2024年10月のドラフト会議にて、福岡ソフトバンクホークス 育成ドラフト3位指名を受ける。
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